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観光バスに主力を置く会社

K でも八OO本。 その中のすべての映画が、大好きとは限らないと思うの。
だけどそういうのでも全部愛情をこめて解説なさっていらっしゃるでしょう? Y まあ八OO本ですから、「ちょっと、かったるいな」と思うものも出てきます。 私はそういうとき、「でも商売柄、おしゃべりしなくちゃいけない」とは絶対思えないのです。
そういう思い方するともうだめ、「休ませてください」言いたくなるの。 でもどっかに何か必ずいいところがあるのですね。
Y が洋画劇場をやっていると言った時、 K はすかさず、「でも八OO本。 その中のすべての映画が」と八OOという具体的な数字をあげている。
そのことで、相手の仕事の大きさへの共感を示し、敬意を伝えているのだ。 大切なのは、相手がいちばん苦労したことをとりあえずくみ取ることである。
論文の審査などでも、部分ばかり批判し、著者がいちばんエネルギーをかけたところをまったくノーカウントにする人がいる。 間違った評価の仕方だと私は思う。

その人がいちばんカーを入れている部分をしっかり認めることがコミュニケーションには必要である。 つまりコミュニケーションは減点制ではないということだ。
減点制は自分の基準に照らして、相手に欠けているところを探して行く。 相手にすばらしいところがあって、そこにエネルギーがかかっていても、自分の基準に合わなければ切り捨ててしまう。
弱点ばかりを拡大してみるという評価の仕方だと、お互いに共感が深まらない。 K の対談に戻ると、「八OO本」という形で共感を示したあとの質問がいい。
「その中のすべての映画が、大好きとは限らないと思うの。 だけどそういうのでも全部愛情をこめて解説なさっていらっしゃるでしょう?」いいところを突いた質問である。
八00本もあれば、全部好きなはずはない。 いったいどうやってあんなに熱をこめて解説できるのか、その秘密を聞き出そうとしている。
Y の魅力の根幹に迫る質問だ。 彼が解説するとどの映画も楽しそうにみえる。
だから見たくなる。 その答がまたおもしろい。
「まあ、八OO本ですから、『ちょっと、かったるいな』と思うものも出てきます」とひじように正直である。 「つまらない映画なんかないのです。

全部感動します」と言ってしまえば、おもしろくも何ともない対談になってしまうが、やはり Y でも「かったるい」と思うものもあるのが興味深い。 続けて「そういうとき、『でも商売柄、おしゃべりしなくちゃいけない』とは絶対思えないのです。
そういう思い方するともうだめ」という。 これもおもしろい発言だ。
そのあとに、「映画はね、どっかに何か必ずいいところがあるのですね」と言う。 その具体例が傑作で「このお手洗のきれいなこと、とかね」。
K さんが、「は、は、は、お手洗!」と爆笑するわけである。 この話の展開は両者とも大変うまい。
これを型通りに答えてしまっては、おもしろくなかっただろう。 本音を言ったとしても、「商売だからイヤイヤやっています」と答えたら、聞いているほうもしらけてしまう。
具体例で「お手洗」をあげたところが非常におもしろいのだ。 具体的な話と抽象的な話をつなぐ K は相手のよいポイントをほめて、話を次に展開していくやり方が上手だ。
「 Y 先生は、素晴らしい美意識をお持ちですが、そういう美も映画ではとても大切ですね」とふる。 一見質問には見えないが、「そういう美が映画には大切ですね」と言われれば、当然「美」について話すことになるので、話をふったことになる。
「映画における美とはどういうものでしょう?」と一言う質問だと固くなってしまう。 どうしても普遍的、一般的な話になってしまい、論理的な説明になってしまうだろう。
コミュニケーションのコツはその人の奥底にある経験を引きずり出してくるところにあるので、映画一般の美について語るのではなく、「 Y 先生は、素晴らしい美意識をお持ちですが」と、彼の美意識から見て映画の美とは何かという質問にした点がすぐれている。 主観的な経験あるいは主観的な価値基準と絡めて話してくださいという、うながしがすばらしい。
しかも「素晴らしい美意識をお持ち」というほめ言葉が入るので、相手は気分よく話に入っていける。 「すばらしい美意識についてお話しください」と言われると照れてしまうが、個人的な話を「そういう美も映画ではとても大切ですね」と一般論とつないで質問しているところがすごいのだ。

非常に大切なことである。 対話の中でやたらと話が一般的になりすぎてしまい、正漠とした話しかできないタイプの人がいる。
一方では具体的あるいは個人的な話しかできない人もいる。 本来はそれをつないで話をすることでコミュニケーションが深まる。
黒柳徹子は、質問自体にその2つをつないで話してくれという暗黙のうながしをこめている。 余談になるが、私は学生時代心理療法家の R 博士の考案したエンカウンターグループ(出会いのグループ)に参加したことがある。
まったく知らない人同士が叩人ほどで、一部屋で話をするというセッションだ。 いちおうフアシリテータ といううながし役が入るが、特に司会をするわけではなく、セッションがどうしょうもなく煮詰まった時にうまく話を流すぐらいの役目である。
基本的には初対面の参加者がテー マもなく何となく話し合う場だと考えていい。 すると意外なことに、いきなり深い話になることが多い。
友だちにも言えないような深刻な人生相談をその場でいきなり持ち出してくることが起こる。 他人同士だからかえって気楽に話せるのかもしれない。
私が参加した時は参加者の中に理屈っぽい男子学生がいた。 彼に対してある女子学生が「あなたの聞いていることも言っていることも全部一般論で、あなた自身が少しも出てこないじゃない」と痛烈に批判した。
彼は「人間とはこういうものじゃないだろうか」という言い方しかできない。 対話の最中それを直そうとするのだが、レコードの溝にはまりこんだように一般論的な話に戻ってしまうのだ。

一方、批判している女子学生のほうも自分の個人的な経験の話はできるが、他の人の経験に絡んでいけない。 抽象化する力が少し足りないのである。
もう少し物事を抽象的にとらえられれば、自分の経験と他人の経験のつながりを発見できるのだが、そこをつなぐ操作ができない。 だから純粋に自分の経験を話す時は元気がいいが、他人の経験を聞く時はつまらなそうである。
2人のやりあいは実にちぐはぐで、見ていておもしろかった。 作家の M が『存在の耐えがたきサルサ』( B 社) という対談集で作家の T と対談している。
M はテレビの『 R ・パー』というトーク番組でホストをつとめていたぐらいだから、非常に受けが上手である。 本人はなかなかエネルギッシュで強面な雰囲気だが、実は意外に合わせるのがうまい。
M T さんは、今五分ぐらいの聞に大事なことを二十個ぐらいいったから(笑) 、どれにリアクションしていいかわからないけれども、今おっしゃったことは、案外 B、昔の H・ H みたいなものにもちょっと似ていますね。 T ファンなのです(笑) 。

T の話がしばらく続いたあと、 M は「 T さんは、今五分ぐらいの間に大事なことを二十個ぐらいいったから、どれにリアクションしていいかわからない」と言う。 大変うまいやり方だ。

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